Q&A

Q   信託はどのように設定するのですか?

A   信託は、契約、遺言、信託宣言という3つの方法のうち、いずれかの方法によって設定されます(信託法3条1号ないし3号)。
そして、信託を設定するこれらの法律行為(契約、遺言、信託宣言をする旨の意思表示)を「信託行為」と呼びます(信託法2条2項)。

 

① 信託契約による信託の設定

信託法は、信託契約を次のように定義しています。

信託法3条1号

特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約

 

条文から分かることは、信託契約は、委託者と「特定の者」=受託者との間で、次のa及びbについて合意することによって成立することです。

a. 委託者が、受託者に対して、財産の譲渡等の処分をする旨

b. 受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の目的の達成のために必要な行為をすべき旨

なお、信託契約は、口頭の合意によっても成立します(諾成契約)。

この点、旧信託法は、「本法において信託と称するものは、財産権の移転その他の処分をなし、他人をして一定の目的に従い財産の管理または処分をなさしむるをいう」と定めており、「処分をなし」との文言から、委託者から受託者に対する財産の処分がなされてから、信託が成立する(要物契約)と解釈する余地がありました。

しかし、たとえば、資金調達方法の1つとして、自益信託を成立させた後、第三者に受益権を譲渡することで資金調達を図るというスキームを構築することが考えられ、この場合、信託成立前に受益権を購入する第三者を募っておきたいというニーズが存在するところ、財産の譲渡がされるまで信託が成立するかどうか分からないというのでは、受益権を購入しようとする第三者がなかなか現れないといった問題点がありました。

そこで、信託契約が諾成契約であることを明確にするため、現在の条文になったと説明されています(佐藤哲治編『Q&A信託法-信託法・信託法関係政省令の開設-』63頁以下)。

もっとも、委託者と受託者との間における合意内容を明確にするため、信託契約書が作成されることが一般です。

 

② 遺言による信託の設定

信託法は、遺言による信託の設定について、次のように定めています。

信託法3条2号

特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法

 

条文から分かることは、遺言で次のa及びbを定めることによって、遺言による信託を設定できることです。

a. 委託者が、受託者に対して、財産の譲渡等の処分をする旨

b. 受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の目的の達成のために必要な行為をすべき旨

このうち、aは遺言の性質として当然のことですから、これに加えてbを定めることによって遺言による信託が設定されることがポイントです。

このように遺言による信託を設定する場合、受託者となる者は生前に決められており、委託者が死亡したときには、遺言によって受託者となることに同意していることが通常です。しかし、遺言は一方的な意思表示ですから、生前に、受託者として指定する者の同意等を得ていなくとも、遺言によって信託を設定することができます。つまり、知らないうちに受託者とされていることがあり得ます。

この場合、利害関係人(相続人や受益者等)は、遺言によって受託者と指定された者に対し、相当期間を定めて、受託者としての任務を引き受けるかどうかを催告することができます(信託法5条1項)。受託者が相当期間内に回答せず、あるいは引き受けを拒否した場合、利害関係人は、裁判所に対して受託者選任の申立てをすることができます(信託法6条1項)。

なお、遺言による信託は、遺言の効力発生時=委託者の死亡時に効力が生じます(信託法4条2項)。言い換えると、受託者が誰になるか定まっているか定まっていないかにかかわらず、信託の効力は生じます。仮に効力が生じないとすると、遺言によって信託財産とされた財産が、委託者の固有財産として相続財産を構成し、相続人に帰属してしまうおそれがあるからです。

このように、遺言によって信託を設定することを「遺言信託」といいます。他方、金融機関が、その業務として、顧客から遺言の相談を受け、遺言書作成の手伝いをし、遺言の管理等を行うことがあり、このような業務の名称として「遺言信託」が使用されることがあります。しかし、これは信託法が定める「遺言信託」とは異なるものです。混同しないよう、注意が必要です。

 

③ 信託宣言による信託の設定

信託法は、信託宣言による信託の設定について、次のように定めています。

信託法3条3号

特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他の書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法

 

長い条文ですが、ポイントは、次の2点です。

a. 信託宣言によって自己信託を設定することが認められたこと

b. ただし一定の方式を要すること

信託宣言とは、「以降、この財産を信託財産として、固有財産とは別扱いをします」という宣言のことをいい、信託宣言によって成立する信託を、委託者自身が受託者となる信託との意味で、「自己信託」といいます。信託法は、このようにして「自己信託」を成立させることを認めたものです。

他方で、自己信託を設定するためには、公正証書その他の書面又は電磁的記録によって、一定の事項を記載・記録したものによってしなければなりません。このように自己信託を設定するにあたって、一定の方式が要求されるのは、たとえば、債権者から財産の差押等を受けたときに、「この財産はすでに信託宣言がされており、自分の財産ではない」との言い逃れをすることを防ぐためです。

この点、公正証書であれば日付が残るので問題がありませんが、「その他の書面又は電磁的記録」によるときには、日付を遡らせるおそれがあるので、自己信託によって受益者となるべき者として指定された第三者に対する確定日付のある証書による当該信託された旨及びその内容の通知があったときに、自己信託が効力を生じると定められています(信託法4条3項2号)。「確定日付のある証書」とは内容証明郵便などをいいます。また、自己信託の内容を通知すべきものとしたのは、A財産について自己信託がされたのに、B財産の差押等があったときに、「自己信託をしたのはB財産であった」との言い逃れをすることを防ぐためです。

 

自己信託は、たとえば、障害をもった子どもを持つ親が、子どもに財産を残すために、信託を設定して財産の確保を図りつつ、管理・処分等は引き続き自分が行うというニーズや、会社が、資金調達のために、ある部門の資産を会社財産から独立させたいとのニーズに応えるために利用されることが考えられます。

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