Q&A

Q   信託の「目的」を定める際の注意点を教えてください

信託法は、信託について、次のように定めています。

信託法2条1項

この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が“一定の目的”(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の“当該目的の達成のために必要な行為をすべきもの”とすることをいう。

条文から分かることは、信託と認められるためには、「一定の目的」、すなわち信託目的が定められなければいけないということです。また、「一定の目的」が、受託者に対し、その目的に従って財産の管理又は処分をなし、あるいは、その目的達成のために必要な行為をすべきことを定めるものであることからすると、「一定の目的」とは、受託者の行為規範(受託者がある行為をするときに参照すべき基準)を定めるものと理解されます。

したがって、厳密には、「委託者が達成したい目的」(信託を設定する動機に相当するもの)と、信託成立の要件である「一定の目的」とは区別されるものです。もっとも、「障害をもつ子どものために安定した生活を保障したい」という目的(動機)で信託を設定し、この目的を信託目的とすることは当然でき、このように定めるときには、「委託者が達成したい目的」と「一定の目的」とが重なることがあります。

いずれにしても、信託目的は、受託者の行為規範となるものですから、軽い気持ちで定めてしまうと、受託者が好き勝手に財産を管理・処分等をすることを許してしまい、委託者が信託で達成しようとした目的が達成できなくなってしまうおそれがあるので、注意が必要です。

信託目的をどのように定めるかは、後で述べる違法な目的を定める場合等を除いて自由です。それゆえ、多様な目的の定め方がありえます。たとえば、円滑な資金調達、事業・財産承継、障害を抱えた子どもの安定した生活保障というように、「何のための信託」であるかを定めるにとどめておくことも可能ですし、受託者の行動を一定程度コントロールするために、「信託財産をリスクの少ない金融商品に投資して信託財産を増殖させ、受益者Aに教育資金として少なくとも100万円ずつを与えると共に、増殖した部分から一定額を与える」というように具体的に定めることも可能です。信託目的を定める際には、「信託を利用して何をしたいのか」、「受託者の行動をどの程度コントロールしたいのか」といった点をきちんと考えて、それに沿った目的の定め方をする必要があるといえます。

このように、信託目的の定め方は原則として自由ですが、次のとおり、信託の目的とすることができないものもあります。

① 訴訟を目的とするもの

いわゆる訴訟信託であり、訴訟を行わせることを主たる目的とする信託は禁止されます(信託法10条)。たとえば、Aが、甲不動産に関する訴訟をBに行わせることを主たる目的として、Bに対して甲不動産を信託譲渡し、Bが受託者として甲不動産に関する訴訟追行を行う場合が考えられます。もっとも、この場合、外見上は、適法な信託にみえ、「主たる目的」が何であるのかによって、禁止される信託であるか、適法な信託であるかについての結論が分かれます。いずれにしても、係争不動産等について信託を設定する場合には注意が必要です。

② 脱法信託

信託法9条は、「法令によりある財産権を享有することができない者は、その権利を有するのと同一の利益を受益者として享受することができない」と定めています。

たとえば、鉱業法という法律は、鉱業権者となれる者を日本国民又は日本法人に限定しています。そこで、鉱業権者である日本国民又は日本法人が、外国人又は外国法人を受託者とし、鉱業権を信託財産とする信託を設定することは、上記鉱業法の定めを僭脱するもので、信託法9条によって禁止されます。

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