預金債権は、金銭債権であり、信託法34条1項2号ロに該当する財産です。
したがって、分別管理の方法としては、「その計算を明らかにする方法」、すなわち、帳簿を作成する等によって明らかとすることで足ります(Q10-1を参照。)。
そうすると、信託契約における受託者がAである場合において、A名義の預金口座に信託財産とAの固有財産が混在している場合であっても、そのうち幾らが信託財産であるかが帳簿等によって明らかにされるのであれば、分別管理の方法としては足りると考えられます。
もっとも、「受託者A」名義で預金口座を開設することができる場合には、「受託者A」名義の預金口座を開設した上で、その口座にAの固有財産を入金し、又は、A個人のために出金しないという取扱いをする(信託専用口座とする)ことで、分別管理を簡易に達成することができます。
なお、A個人名義の預金口座とした場合であっても、信託専用口座とする取扱をすることで、分別管理の方法としては足りると考えられます。
「受託者A」名義の預金口座を開設し、当該口座を信託専用口座として取り扱うことが、分別管理の方法として最も確実ですが、実際上の問題として、金融機関が受託者名義の預金口座の開設に応じないということが、よくあることです。
それでは、受託者Aが破産した場合、受託者Aの債権者は、Aが管理する預金債権を差し押えることができるでしょうか。
預金債権は、「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産」に該当しないので、特別の対抗要件を具備することなく、第三者に対抗することができます(信託法14条)。
とすると、上記の分別管理義務を履行することにより、債権者からの差押えに対抗できるとも考えられます。
しかし、Q9-1の金銭について述べたのと同様、Aが様々な預金口座を保有しており、帳簿上、そのうち幾らが信託財産であるのかは明らかであるが(たとえば100万円)、どの預金口座で管理されている預金債権が信託財産なのか特定できない場合や、各預金債権のうち幾らが信託財産であるか特定できないという場合が考えられます。
この場合には、金銭について述べたのと同様、受託者債権者の差押えを排除できないと解されます。
そのため、預金を信託財産とする場合には、
① 受託者Aが、「受託者A」名義の預金口座を開設し、かつ、当該口座を信託専用口座として管理するという方法
又は
② 受託者Aが「A」名義の預金口座を開設し、かつ、当該口座を信託専用口座として管理するという方法
のいずれかの方法によることが望まれます。
また、②の場合には、信託契約、信託目録等によって、当該預金口座が信託財産であることを示すことが望まれます。