認知症・相続対策のための信託

事例

小泉さんには、奥さんと息子が1人、孫が1人います。息子は結婚し、小泉さんとは別に暮らしており、現在は、小泉さんと奥さんが2人で暮らしています。 


 小泉さんは、先日、友人の岩田さんが認知症を発症し、見舞いにきたお孫さんの問いかけにもうまく反応できなくなってきたということを聞き、自分も認知症になったらどうなるのだろうと心配になりました。



何も準備していないと

このまま小泉さんが認知症を発症し、自分自身で色々な物事を判断できなくなってしまった場合、どうなるでしょうか。


 まず、小泉さんが、認知症を発症して、自分自身の財産を適切に管理・処分等することができない程度に判断能力を失なってしまった場合、法律上、「意思能力がない」とされ、小泉さんがした売買契約等の法律行為は無効となります。


つまり、小泉さん自身では「何もできない」ことになります。


 民法は、こうした人に代わって財産管理を行うための制度として、後見という制度を用意しています。


これは、家庭裁判所が選任した成年後見人等が、自分自身で適切に財産を管理・処分等することができない人に代わって、財産の管理・処分等を行う制度です。


 このように、後見制度があることから、小泉さんとしては、認知症になっても心配がないと思われるかもしれません。


しかし、後見人の仕事は、基本的に、被後見人(小泉さん)が生きている間、被後見人の財産を保全することにとどまります。


そのため、たとえば、小泉さんが、

  • 「自分が生きている間、お小遣いを定期的に孫にやりたい。」
  • 「自分が亡くなった後、妻が生きている間は自宅を妻に、妻がなくなったら息子に継がせたい。息子が亡くなったら、孫に継がせたい。」

と思っていたとしても、後見人は、小泉さんの思いを叶えてくれません。 こうした小泉さんの思いを叶えるためには、これからご紹介する、遺言や信託等を利用することが必要です。  

遺言でできること・できないこと

遺言は、自分が死んだ後の財産処分の仕方について定めるものです。


 遺言では、自分が死んだ後、自分の財産につき、誰に、何を、どれだけあげるか予め定めておくことができます。


 小泉さんの場合、遺言において、たとえば、自宅は妻にあげる、その他の預金等の財産のうち半分は息子にあげ、もう半分は孫にあげるといったことを定めておけば、小泉さんの死後、そのように小泉さんの財産が承継されることになります。


 他方、遺言は「死後」の財産処分の仕方について定めるものですから、生前の財産処分の仕方について定めておくことはできません。 


また、遺言では、自分が死んだときの財産処分の仕方について定めておくことができますが、その後の財産処分の仕方について定めることはできません。


たとえば、「自分が死んだ後、妻に自宅を取得させる。」というところまでは遺言で定めておくことができますが、さらに進んで、「妻が死んだ後は、息子に自宅を取得させる。」ということは定めることができません(「跡継ぎ遺贈」と呼ばれます。)。  


このように、遺言では、「生前」の財産処分の仕方について定めておくことができず、また、自分が死んだときの財産処分の仕方について定めておくことができますが、それよりも将来の財産処分の仕方については定めておくことができません。  

信託でできること

信託では、まず、自分の「生前」の財産処分の仕方について定めておくことができます。 


 小泉さんの場合、たとえば、信託財産を一定の現金(例:100万円)、委託者を小泉さん、受託者を息子、受益者を孫としておき、小泉さんが亡くなるまでの間、月2万円を信託財産から支出して孫にあげるなどと定めておくことができます。 


 また、信託の効力発生時期を、小泉さんが認知症により財産管理能力を失ったときなどと定めておくことで、小泉さんが認知症になるまでは小泉さんが好きなように孫にお小遣いをあげ、認知症になった後は、信託で定めた仕方でお小遣いをあげる、といったこともできます。





次に、信託では、自分が死んだときの財産処分の仕方のみならず、それよりも将来の財産処分の仕方について定めておくことができます。 


 小泉さんの場合、たとえば、信託財産を自宅、委託者を小泉さん、受託者を息子、1番目の受益者を小泉さん、2番目の受益者を妻、3番目の受益者を息子と息子の妻、最終的に財産を受け取る人を孫としておくことで、自宅を小泉さん→妻→息子→孫と取得させることができます。 


 なお、ここで3番目の受益者を息子と息子の妻としているのは、信託法上、受託者と受益者とが同一人物であると、1年で信託契約が終了してしまうからです。 


 息子と息子の妻が3番目の受益者となる場合、息子は小泉さんとは別で暮らしていますから、たとえば誰かへ自宅を賃貸し、賃料収入を息子と息子の妻が受け取る、といったことが想定されます。





まとめ

以上のとおり、遺言や信託を利用することで、認知症となった後、それから死後の先々のことについて、自分がしっかりしている間に、きちんと決めておくことができます。


 認知症になっても引き続き孫にお小遣いをやりたい、死後、家族で揉めないようにしておきたいと考えるなら、こうした準備をしておくことが考えられます。

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