先日、Aさん(65歳)、妻Bさん(60歳)夫婦と一緒に暮らしていたAさんの父親が亡くなり、Aさんは、Aさんの父親から先祖代々受け継がれてきた自宅を相続しました。Aさんは、Aさんの父親から、この自宅はAさん血族で受け継いでいってもらいたいと伝えられていました。 Aさんは、Aさんが亡くなった後もBさんが生存中は、Bさんに自宅で安心して暮らしてもらいたいと考えています。 この場合、Aさんの相続人は甥Cさん一人のため、自宅は甥Cさんに相続されます。したがって、Aさんの希望通りになりますので、特に問題は生じません。 民事信託を活用すれば、Aさんが亡くなった後もBさんが生存中は、Bさんに自宅で安心して暮らしてもらうことができ、AさんだけでなくBさんも亡くなった後は自宅をCさんに譲ることが可能となります。
Aさんを委託者兼第1次受益者、Cさんを受託者、Bさんを第2次受益者とします。 Aさんの希望に沿った信託スキームは、Aさんが亡くなった後の財産承継を定めていますので、遺言の代用として利用される遺言代用信託にあたります。 Aさんが、自宅の承継について、遺言書のみを準備していた場合はどうなるか考えてみましょう。第1 Aさんの相談事例
事例
Aさん自身にはほとんど財産がなく、Aさんが亡くなった場合、Aさんの相続財産はほぼ自宅のみと考えられます。親族関係
AさんとBさん(60歳)の間に子どもはおらず、Aさんの母親もAさんの弟も既に亡くなっています。そのため、Aさん以外のAさん一族は、Aさんの甥Cさん一人です。
一方、Bさんの両親も既に亡くなっていますが、Bさんには弟Dさん家族がいます。
BさんとCさんは、ほとんど親戚付き合いがなく、仲良くありません。Aさんの希望
もっとも、AさんだけでなくBさんも亡くなった後は、Aさんの最終的な希望は、自宅をCさんに譲りたいと考えています。第2 何も準備していないと
BさんがAさんより先に亡くなった場合
AさんがBさんより先に亡くなった場合
Aさんが、財産承継に関して何も準備していなかった場合、Aさんの財産は、法定相続分に従うとBさんが4分の3、Cさんが4分の1の割合となります。
そして、BさんとCさんは仲が良くないため、自宅を巡って遺産分割の方法等を争い、最終的には金銭的な解決で決着、すなわち、自宅を売却して、売却代金をそれぞれ3対1の割合で分配してしまうかも知れません。
これでは、Aさんの希望に完全に反しますし、相続に関して無駄な争いを生じさせてしまいます。
この場合、Bさんはそのまま自宅で暮らすことができます。
しかし、Bさんが亡くなった後、自宅はBさんの唯一の相続人であるBさんの弟が相続することになり、Aさんの最終的な希望に反します。
しかし、Cさんが、Bさんの生存中、Bさんが自宅でそのまま暮らすことができるように配慮してくれるとは限りません。
これでは、Aさんが亡くなった後、Bさんの生存中は、Bさんに自宅で安心して暮らしてもらいたいというAさんの希望は、叶えられません。第3 信託を活用すると
Aさんの希望を実現
信託スキーム
Aさんの死後も、Bさんが自宅で従来どおりの生活ができるようにし、Aさん及びBさんの死亡後は、自宅をCさんに承継させる。
①委託者 A
②受託者 C
③受益者 第1次受益者 A
第2次受益者 B ※Aの死亡を契機とする。
④帰属権利者 C
⑤信託監督人 弁護士E
不動産(自宅)
金 銭(自宅の管理用)
A及びBが死亡するまでスキーム図
信託スキームの説明
AさんはCさんに自宅を委ね、Aさんが生存中はAさんに、Aさんが亡くなっても、Bさんが生存中はBさんに自宅を利用させます。
Cさんに委ねる財産を自宅のみとすると、自宅の管理等に必要な経費の支払いが問題となるため、一定の金銭も信託財産に含めておきます。
Cさんが信託目的に沿った運用をしているかどうか監督するために、信頼できる弁護士Eに、信託監督人となってもらい、Cさんを監督してもらいます。
AさんもBさんも亡くなれば、Cさんが自宅を承継し、信託は終了します。第4 ワンポイントアドバイス
遺言代用信託
通常の遺言では
Aさんは、Aさんが亡くなっても、Bさんが生存中は、Bさんに自宅で暮らしてもらいたいと考えていますので、「Bさんに全財産を相続させる。」との遺言を用意すると考えられます。
しかし、Aさんが自身の遺言書で、Bさんの死亡後のことまで言及し、「Bさんが亡くなれば、BさんはCさんに自宅を遺贈すること。」などと遺言することはできません。
このような遺言を「後継ぎ遺贈」と言いますが、民法上は認められないとの考えが有力です。
Aさんは、Bさんに対して、Bさんが亡くなった場合に備えて、「Cさんに自宅を遺贈する」という遺言を用意してもらうようにお願いすることはできます。
ところが、遺言はいつでも書き換えできますので、Bさんが一旦、自宅を相続した後、Bさんがこの自宅をやはりBさんの弟Dさんに譲りたいと考えれば、BさんはCさんに自宅を遺贈することなく、Dさんに相続させることが可能です。
このように、Aさんの遺言では、Aさんの最終的な希望に対応することは困難です。
Aさんは、Cさんに対して、「Bさんの生存中はBさんに自宅を利用させること」という条件付きで、Cさんに自宅を遺贈することはできます。
これを「負担付遺贈」といいます。
しかし、負担付遺贈の場合、負担が確実に履行される保証はなく、Cさんが負担を履行しなければ、Bさんが、Cさんに対して履行を催告し、相当期間内に履行がなければ、家庭裁判所に対して当該負担付遺贈の取消を求めなければなりません。
これでは、Aさんが亡くなった後は、Bさんに自宅で安心して暮らしてもらいたいというAさんの希望は叶えられません。信託のメリット
認知症・相続対策のための信託
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